ロンドン大学

東洋アフリカ研究学院 編

2019年7月にロンドンに引越し、9月からロンドン大学 東洋アフリカ研究学院の修士プログラムに入学しました。英語名はSchool of Oriental and African Study で略称でSOAS(ソアス)と呼ばれています。SOASは、人文科学系の大学で特に開発学が有名だったわけですが、音楽学部に関しても普通の音楽大学(ヨーロッパの18世紀に発展した宮廷音楽、要するにクラシック音楽を勉強するところ)とは一線を画したかなり独特なプログラムを持っていまして、SOASの音楽学部は民族音楽学(世界の音楽)を学ぶところだったのです。民族音楽学とは英語で(Ethnomugicology)と言います。"音楽の文化人類学”とか"文化の中の音楽”という言われ方もします。音楽を通してその背後にある文化を見ていく学問というと少しはわかりやすいでしょうか。

とにかく、学校は世界のいろいろな文化からのエキスパートの音楽家を講師として迎え入れていました。それはもう、本当に毎日が世界旅行をしているようでした。


学校の雰囲気を伝えるために、9月末から始まる秋学期の第1週目のオリエンテーションのなかのサークルの勧誘イベントを紹介しようと思います。いろいろな文化の伝統音楽のエキスパートの先生たちがSOASで教えていましたが、なぜ、ロンドンにそのようなエキスパートが世界中から集まっているかというと、ロンドンに来ると収入もチャンスも自国にいるより増え、世界から集まった一流音楽家と共に国際的な活動ができるからだと思います。SOASにはそのように世界的に活躍する音楽家が所属していて、そのような講師が主宰しているサークルの紹介イベントがStudent Unionでありました。学校の雰囲気がよく伝わると思うので、一部ご紹介いたします。

こちらは、アフロキューバンバンドですが、インド人歌手とのフュージョンになっていました。SOASの特徴として、伝統を守ることは尊重していますが、反対に違う文化を融合させて新しいものを生み出すこともとても奨励しています。

次は、ヤンキンという中国の楽器で漢字だと揚琴とか洋琴と書かれる楽器ですが、彼の名前はReylon Yount。中国伝統楽器とポップスを融合させている。素晴らしい音楽家です。

次にセネガルのKora(コラ)という弦楽器を弾くKadialy Kouyate。驚くほど繊細で優しい音です。

もっとたくさん紹介したい方々がいるのですが、長くなりすぎるので、オリエンテーションの中からは以上にします。

次に私のクラスメートの南アフリカ共和国出身のThandeka Mfinyongoです。最初に会って話をした時から彼女の我が強くないけど超個性的で自然なスタイルが大好きでした。彼女はUmrhubhe(ウムリュベ)、別名が口弓?(マウスボウ)とUhadi (大きな弓にカラバッシュの実がついている)の奏者でシンガーでもあります。その楽器は、南アフリカ伝統楽器で部族ごとに楽器の作りに相違はあり、オリジナルは、南アフリカの原住民族のブッシュマンということです。下の写真のように口で弓の部分を押さえ、息や声を出しその振動を右手に持った弓で調整し音階を作ります。こちらのリンクからUmrhubheの演奏はみていただけます。

私たちの周りにある西洋楽器(ピアノ、ギター、管楽器など)を音楽だと理解している人にとって、この楽器の音楽としての美的価値を理解することは難しいのではないかと思います。しかし、この美的価値に目覚めると、きっと今まで知らなかった世界が見えてくると思います。

そして、このような世界の伝統楽器を聴くと、自然に対する敬意の心が湧いてくると思うのですが、いかがでしょう? 森が消滅すると、楽器も作れない、文化も物凄い勢いで消滅していっています。長い月日をかけてその土地で人間が培って伝承してきたものにもう一度目を向けてもいいと思います。SOASで学び、私も、西洋音楽を聴きピアノを弾いて育ってきましたが、自分の文化(日本文化)にあるものに対しての敬意を教育システムの中で教えてもらわなかった世代でもあるのですが、もう一度目を向けたくなり、学校の後半には、David W. Hughes 先生 の主宰するSOAS民謡グループに参加させてもらっていました。David 先生はSOASを教授だった人で、日本研究に関する研究で日本政府から紫綬褒章も授与している方ですが、日本の民謡を愛し、気さくで楽しくとても尊敬できる方です。このグループはいまだに週一回のセッションをZOOM上で持っていて、私も日本から参加しています。

私は、結局、在学中にガムランのクラスに単位習得とは関係なしに入れてもらい、タブラソサエティーでSanju Sahai 先生からタブラを習い、いまだにオンラインでロンドンの先生からレッスンを受けています。Sanju Sahai先生はヒンズー教の聖地、ベナレスで300年以上続くタブラ奏者の家系の継承者です。いろんな意味で衝撃的でした。なので私とインドとのご縁、そしてタブラとインド音楽に関しては、『インド編』でお話しさせてください。