ジャマイカ

エドナ・マンレー芸術大学編

私は2015年9月から2018年6月まで独立行政法人国際協力機構(JICA)シニアボランティアとして、ちょうど秋田県ぐらいの大きさのカリブ海に浮かぶ島、人口293、5万人ジャマイカの首都、キングストンに派遣されました。そこで、エドナ・マンレー芸術大学(https://emc.edu.jm/our-schools/)の音楽学部にピアノ講師として3年間赴任していたのです。


私は2015年9月から2018年6月まで独立行政法人国際協力機構(JICA)シニアボランティアとして、ちょうど秋田県ぐらいの大きさのカリブ海に浮かぶ島、人口293、5万人ジャマイカの首都、キングストンに派遣されました。そこで、エドナ・マンレー芸術大学(https://emc.edu.jm/our-schools/)の音楽学部にピアノ講師として3年間赴任していたのです。

最初、ジャマイカに行く話が来たときに、寝耳に水で考えてもいなかった行き先だったのですが、『行きます』と即答したのには理由があります。ジャマイカといえば音楽が有名、カリブの小さな島のレゲエというジャンルでボブ・マーリーを輩出し、過去に全世界に影響を与えた歴史があり、レゲエは世界的なものになっています。なぜ、この島はそのような影響を世界に与えることができたのか自分で見てみたいと思ったからです。

エドナ・マンレー芸術大学は他に5つの学部があり、音楽学部の他に、舞台芸術学部、演劇学部、舞踊学部、アートマネージメント&人文学部があります。

生徒数100〜120人程度の規模の音楽学部には、教育学科と演奏学科があり、演奏学科にはジャズとクラシックのコースがあります。私が、担当したのは、ピアノ個人レッスン(ジャズの生徒と、クラシックの生徒両方)、ピアノ以外の楽器演奏者のための鍵盤楽器基礎技術のためのグループクラス、ジャズアンサンブルクラスを担当していました。その他、ボーカルの伴奏なども随時引き受けるようにしていました。

どんな生徒たちがいるかというと、基本的には皆、レゲエミュージシャンです。正規の音楽レッスンを受けたことのある生徒はほとんどいないので、楽譜が読めない状態で音楽の学位を取るためのプログラムに入ってきてしまうという恐ろしい状態です。最初は、私の音楽大学とはこういうものだという概念からは程遠く、かなりの衝撃を受けました。しかし、同時に、彼らの演奏能力や、音楽性の高さにノックアウトされました。音楽が生き生きとして、躍動感があり、なんと言っても楽しいのです!!

2018年4月頃毎学期ごとにある講師演奏会、この時はラテンアメリカがテーマでした。(ピアノ演奏しているのは私)

こちらは、エドナ・マンレー芸術大学の卒業試験の一つ。生徒は1時間のコンサートをオーガナイズしてリーダーとして完遂させます。学内外からの試験官が審査します。これは、学校の年間イベントの中でも一番大事なイベントで、2週間にもわたり毎晩このようなコンサートが続きます。学外からもたくさんのお客さんが来ます。こちらの卒業演奏会のビデオは、ドラムの生徒の卒業試験ですが、世界的に大人気のレゲエミュージシャンで不動の人気を保っているChronixxのボーカルまでもやってきました。

講師陣はどんな様子かというと、欧米の音楽学位・修士・博士を持っている高学歴エリートに属する方々でクラシックかジャズを演奏し、ジャマイカ人だけではなく、ヨーロッパからアメリカからの講師も迎え入れていました。一方でレゲエミュージシャンとして実績を積み、世界中をツアーして回った現場派がいます。学内は大きく二派に分かれていて、クラシック音楽の講師は、クラシックはジャズより優れた音楽だと思っている節があるので、この全く立場の異なるグループが常に学内で意見が対立していることは、すぐに気付きました。冷静に考えても、完全に教育レベルや経験が全く違う方達が指導方針で衝突するのは普通ですが、高学歴エリートは口が達者で論理的な思考に長けているので、どうしても学校は、そちらの方に方針が動いていきます。それに反して、生徒たちは、レゲエシーンで活躍してきた現場を知るミュージシャン側を尊敬するので、学校の方針と、生徒たちの求めているものとの間にも溝ができてしまうのです。楽譜を読むトレーニングを強制される学校のプログラムで自分たちの音楽をする魂を殺されると思っている生徒は多いと思います。しかし、世界基準の音楽の学位を取るプログラムに来ている訳なんで仕方ないですが、いつもこの溝には関係者はフラストレーションをためていました。

ざっと状況について説明しましたが、こんな複雑な状況で働かなくてはいけなかったのですが、クラシックとジャズの両方を正規の大学で学んでいる私を学校は重宝してくれました。なぜかというと、クラシックとジャズのバイリンガルである私は、学内の対立とは逆に、両方の音楽を尊重できたので使いやすかったのでしょう。

下は、ピアノ以外の楽器やボーカルを専攻している生徒たちの鍵盤楽器スキルのクラスの様子です。生徒たちは2年間履修する必要があるので、大変だったけど、このクラスを担当したおかげで、ピアノ以外の生徒たちを全員知ることができました。

すっかり、ジャマイカの音楽が大好きになりましたが、レゲエはピアノで弾かないの?といわれれば、好んで弾きません。ジャマイカ人や外国人でジャマイカにレゲエのためにやってくる方達を差し置いて私が弾いてもいつも取ってつけたような演奏になってしまうからです。それでも、学内でジャマイカンドラミングのクラスに参加したりと、ジャマイカの音楽をもっと理解したくて色々チャレンジしていました。みんな仲間に入れてくれてありがとう。

ジャマイカでは音楽は、生活の中になくてはならないものです。『なぜにここの人々はここまでに豊かな音楽文化を育むことができたのか?』と言う疑問がわきました。そして、その一方で日本の現状のことを思います。日本は、多分世界一ピアノレッスンが盛んで一般化・大衆化されているでしょう。でも、私が音楽をやっているということを人に話すと、かなりの確率で『私も子供の頃ピアノレッスンをやっていたけど、苦痛だったんだよね』と言われることが多く、本当にいつも残念な気持ちになり、自分の仕事に対しても自信がなくなります。日本人の日々の生活の中に音楽が浸透している感じもしません。そのような『どうしてなのか?』と言う疑問にある程度の答えを出したくて、そして、自分がどのように音楽を通して社会に少しでも良い影響を与えることができるのか考えるきっかけをジャマイカのミュージシャンたちとの日々の中で与えてもらいました。感謝🙏