〜現場の葛藤を消化し、人生のライフワークへ。人類学・民族音楽学の知見と国際協力を繋ぐ探求〜
チュニジアやジャマイカでの日々、そして計5年間にわたる国際協力(JICA)の現場での経験。そこで目撃した人々の暮らし、価値観の衝突、生々しい音と魂の叫び——。世界中の現場を体当たりで歩んできた私の中で、一つの切実な問いが残っていました。
「現場で経験し、葛藤してきた出来事を、当時の自分の知識だけではどうしても消化しきれない」
自分に不足していたのは、人類学的な視点や、文化の中で音楽を捉える「民族音楽学(Ethnomusicology)」の知見でした。また、携わってきた国際協力と現場の音楽文化を自分の中でどう繋ぎ合わせるのか。学校という学術の場に入り徹底的に掘り下げない限り、自分の中に渦巻く問いを整理して前に進むことはできないと痛感したのです。
「この問いを整理できたなら、それはこれからの人生をかけて取り組むべきライフワークになる」
そう決意し、2019年7月にロンドンへ移住。9月よりロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)の修士課程へと進学しました。
SOASは開発学でも有名ですが、音楽学部も西洋の宮廷音楽(クラシック)を学ぶ一般的な音楽大学とは一線を画し、世界中の音楽文化を研究する極めて独特な場所でした。
学内に足を踏み入れれば、世界中から集まった伝統音楽のエキスパートたちが集い、まさに毎日が世界旅行をしているかのような刺激に溢れていました。西洋楽器の美的価値観だけに慣れ親しんできた者にとって、世界の伝統楽器が放つ特有の響きや美しさに目覚める瞬間は、まさに新しい世界が開ける体験でした。
それでは、世界の一流音楽家が集うSOASの雰囲気をのぞいてみましょう🥰
SOAS(ロンドン大学東洋アフリカ研究学院)の独特で刺激的な雰囲気を知っていただくために、9月末の秋学期第1週目に行われた「サークル勧誘イベント(Student Union主催)」の様子をご紹介します。
SOASには、世界各国の伝統音楽における第一人者(エキスパート)である講師陣が多数所属しています。なぜこれほどまでに世界中からトップクラスの音楽家がロンドンに集まるのでしょうか。それは、ロンドンという都市が世界的な音楽活動の拠点であり、自国にいる以上に多くのチャンスや国際的な共演の機会に恵まれているからです。
イベント会場となったStudent Unionには、そうした世界的に活躍する一流講師たちが主宰するサークルが一堂に会し、自らの音楽や楽器の魅力を熱気たっぷりにアピールしていました。
普段、西洋の楽器(ピアノやギター、管楽器など)の音色や音楽体系に慣れ親しんでいる私たちにとって、世界各地の伝統楽器が持つ独自の音色や美意識を最初から理解するのは、少し難しく感じられるかもしれません。しかし、一度その豊かな響きと独自の美的価値に触れ、目覚めた瞬間、これまで知らなかった新しい世界が一気に広がる感覚を味わえます。
世界で息づく音の多様性と、それを支える一流音楽家たちの熱量を肌で感じられた、まさにSOASならではの象徴的な光景でした。
こちらは、アフロキューバンバンドですが、インド人歌手とのフュージョンになっていました。SOASの特徴として、伝統を守ることは尊重していますが、反対に違う文化を融合させて新しいものを生み出すこともとても奨励しています。
次は、ヤンキンという中国の楽器で漢字だと揚琴とか洋琴と書かれる楽器ですが、彼の名前はReylon Yount。中国伝統楽器とポップスを融合させている。素晴らしい音楽家です。
次にセネガルのKora(コラ)という弦楽器を弾くKadialy Kouyate。驚くほど繊細で優しい音です。宮廷音楽を演奏するグリオの家系の中で演奏されてきたこの物凄く高度な技術を必要とする楽器は、近年まで外国に出る事がなかったそうです。
次に私のクラスメートの南アフリカ共和国出身のThandeka Mfinyongoです。最初に会って話をした時から彼女の我が強くないけど超個性的で自然なスタイルが大好きでした。彼女はUmrhubhe(ウムリュベ)、別名が口弓?(マウスボウ)とUhadi (大きな弓にカラバッシュの実がついている)の奏者でシンガーでもあります。その楽器は、南アフリカ伝統楽器で部族ごとに楽器の作りに相違はあり、オリジナルは、南アフリカの原住民族のブッシュマンということです。下の写真のように口で弓の部分を押さえ、息や声を出しその振動を右手に持った弓で調整し音階を作ります。こちらのリンクからUmrhubheの演奏はみていただけます。
これらの楽器や音に触れるたび、自然や土地に対する深い敬意が湧き上がってきます。森が削られ、文化が凄まじい勢いで消滅していく現代において、人間が長い年月をかけて土地で培ってきた伝承に目を向けることの大切さを痛感しました。
西洋音楽を聴きピアノを弾いて育ち、自国の伝統文化への敬意を日本の教育システムの中で教わってこなかった私自身。SOASで世界の多種多様な音と出会う中で、今度は不思議と「自分自身のルーツである日本文化」に改めて目を向けたくなったのです。
在学後半には、日本研究で紫綬褒章を受章された元教授・David W. Hughes先生が主宰する「SOAS民謡グループ」に参加させていただきました。日本の民謡を心から愛する先生と仲間たちとのセッションは、コロナ禍には、ビデオで継続されており日本から参加していました。David W. Hughes先生は、2025年にお亡くなりになり、この会は、ロンドンで引き継がれてます。
現場の葛藤を解きほぐすために渡ったロンドンで、世界中の豊かな音の世界と出会い、巡り巡って自らの足元にある日本文化の尊さに気づく——。このSOASでの学びと体験こそが、旅の点と点を繋ぎ合わせ、現在の「Musicking 音楽教室」やNPO法人しまなみアートファームとしての活動へと繋がる太い軸となったのです。