クラシックピアノとともに歩んできた私の音楽人生において、最大の転機は20歳の時に訪れました。
きっかけは、一人の民族音楽学者——昭和音楽大学の姫野翠先生との出会いでした。先生の導きによって足を踏み入れたのが、インドの地でした。
それまでの私にとって「音楽」とは、あらかじめ決められた楽譜を正確に読み解き、鍵盤の上で美しく再現することでした。しかし、インドで目にした音楽は、まったく異なる生命力を放っていたのです。
デリーに到着してすぐ、一週間毎晩のようにインドの音楽フェスティバルに通い詰め、身体中でインド古典音楽を浴び続けました。その時、「ヨーロッパのクラシック音楽以上に体系化・洗練されている、底なし沼のように深い世界だ」と瞬時に肌で感じました。
人々の暮らしや祈り、呼吸と切り離せない関係にある音。正解や型だけに縛られることなく、その場の空間や人と即興で響き合い、エネルギーが渦巻いていく圧倒的な空気感。
「音楽とは、ただ譜面を正確に弾くことだけではないのかもしれない」
「即興演奏っていったい何なのだろう?」
言葉になる前の強烈な感動とともに、私の中に大きな問いが生まれました。このインドでの原体験こそが、私の「答えのない音楽の探求」のすべての出発点となり、その後のバークリー音楽大学での学び、全米での演奏活動、そしてロンドン大学SOAS(東洋アフリカ研究学院)での民族音楽学研究へと、私を突き動かしていくことになります。