サンゼルスで抱き続けた「自分の音楽は社会の役に立っているのだろうか」という葛藤。その答えを求め、私はJICA(独立行政法人国際協力機構)の青年海外協力隊に応募し、2012年から2014年にかけて北アフリカのチュニジアへ渡りました。
当時のチュニジアは、2010年に始まった民主化運動(ジャスミン革命)から「アラブの春」へと発展した直後であり、社会が大きく揺れ動く歴史の転換期でした。
世俗派イスラムと呼ばれるチュニジアですが、近代化や西洋文化を好ましく思わない人々も多く、伝統を守りたい人々と近代化を望む人々との間で、日常的に価値観の衝突が起こっていました。
そんな激動の空気の中、私は現地の音楽学院で子どもたちや青少年にピアノを教える日々を送りました。
毎日の生活の中で触れたのは、イスラムの人々の溢れる温かさと、深く美しい信仰の姿でした。彼らの生き方に心からの尊敬を抱く一方で、イスラム一辺倒の社会の中でどこか息苦しさを感じ、同時に西洋文化へ強い憧れを抱いている若者たちの姿も目にしてきました。
「私がここで西洋音楽を教えるのは、『西洋のほうが素晴らしい』と教えるためではない」
伝えたかったのは、世界にはイスラムの規範とは異なる多様な価値観が存在し、それぞれが等しく素晴らしいということ。
実は、それまでの私は恥ずかしながら「音楽にそんな力がある」とは考えてもいませんでした。しかしチュニジアで鍵盤に向かい、若者たちと音を交わす中で、「音楽とは、それまでの固定観念を超えて、人に新しい価値観やしなやかな考え方を示すことができるメディアなのだ」と初めて気がついたのです。
「自分はもっと良くできなかったのだろうか」という自問自答は今も胸に残ります。けれど、あの日々で掴んだ「音を通した多様性の提示」という学びがあるからこそ、私は今も探求を止めずにいられるのだと思います。
人間らしさと温かさに満ちたチュニジアの皆さんへ、心からの感謝を込めて。