2020年、ロンドンがロックダウンに入り、すべての課題を提出して修士論文の執筆を残すのみとなった段階で日本へ帰国し、一度東京の実家へ戻りました。
感染症の収束がいつになるのか全く見通しが立たない中、「収まるまでの間、静かな田舎へ行ってほとぼりが冷めるのを待とう」と考え、避難するような形で訪れたのが瀬戸内海に浮かぶ大三島でした。
当時、すでにオンラインでレッスンを行える環境を整えていたこともあり、大三島に引っ越してすぐにオンラインでの活動を開始しました。最初からこの地で決定的な計画があったわけではありません。しかし、手探りの中で島の自然や地域に息づく共同芸能、そして現地の人々と関わるうちに、結果としてこの地での生活や活動の軸が自然と形成されていきました。
そして2021年8月、大三島にて特定非営利活動法人しまなみアートファーム(SAFM)を設立しました。
ロンドン大学SOASで学んできた「文化の中の音楽」や「音楽開発学(Music in Development)」という視点は、教室の指導だけでなく、SAFMで展開していく事業の根幹に深く沿うものでした。
鍵盤ハーモニカを持ち込み現地で教員を育てる循環を作ってきたジンバブエでの音楽教育支援(Pamodzi Issiyo Music Project)、日本民謡を素材に国内外の音楽家が共同生活をしながら新たな音を創作する「日本民謡音楽キャンプ(Japan Minyo Music Camp)」、そしてそれを地域へ開く「しまなみ世界民謡音楽フェスティバル」。
これらは意図して最初からひとつの形として設計したわけではありません。しかし、大三島での日常的な「Musicking 音楽教室」での指導と、SAFMによる国際的・地域的な取り組みは、やっていくうちに「違う背景を持つ人々が音楽を通して出会い、共になにかを創造する」という同じ根っこで力強くリンクしていることを実感しています。
ロンドンで出会った「Musicking」——音楽を完成された作品(名詞)としてではなく、人が関わり合う「行為(動詞)」として捉えるアプローチ。
あらかじめ決めていたわけではない選択や出来事が重なり合った延長線上に、現在の大三島での日常と、地域や世界と繋がり続ける多層的な活動が存在しています。